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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2444号 判決 1976年8月31日

第一審原告

神保朋正

右訴訟代理人

柱実

第一審被告

千速竹一

亡青木義久訴訟承継人

第一審被告

青木義英

右両名訴訟代理人

篠岡博

主文

第一審被告千速竹一は、第一審原告に対し、金一三万六、五五九円並びに昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までは毎月金二、九二二円、同年六月一日から同月三〇日までの一か月は金五、三四三円、同年七月一日から昭和四八年五月三一日までは毎月金一、二四三円、同年六月一日から昭和五〇年五月三一日までは毎月金三、一五六円、同年六月一日から昭和五一年五月三一日までは毎月金四三七円、同年六月一日から同月三〇日までの一か月は金一、四九一円の右金員に対するそれぞれ各月末日毎の翌日から各支払済みまで年一割の割合による金員の支払いをせよ。

第一審被告青木義英は、第一審原告に対し、金一八万三、四四〇円並びに昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までは毎月金三、七一九円、同年六月一日から同年七月三一日までは毎月金六、七九八円、同年八月一日から昭和四八年五月三一日までは毎月金一、五九一円、同年六月一日から同月三〇日までの一か月は金四、〇一四円、同年七月一日から昭和五〇年五月三一日までは毎月金四、〇一三円、同年六月一日から同月三〇日までの一か月は金五、〇一五円、同年七月一日から昭和五一年五月三一日までは毎月金五五三円、同年六月一日から同月三〇日までの一か月は金一、八九五円の右各金員に対するそれぞれ各月末日毎の翌日から各支払済みまで年一割の割合による金員の支払いをせよ。

第一審原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、訴えの変更前の第一、二審分及び訴えの変更後の第二審分を通じ、これを三分し、その二を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告らの負担とする。

この判決は、第一審原告の勝訴部分にかぎり、仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

一当裁判所は、第一審原告の本件借賃増額請求に基づき甲地及び乙地につき増額さるべき相当借賃額の認定について、次につけ加えるほか、原判決理由説示と同一であるから、原判決の理由(原判決書七枚目表二行目から同一二枚目裏四行目まで。ただし、これに引用する別紙第一表ないし第三表を含む。)をここ引用する。

(1)  <省略>

(2)  <省略>

(3)  借賃増額請求による相当借賃額の算出については、本件の場合は継続した借賃についての増額請求であるから、いわゆるスライド方式を基準とし、これに諸般の事情を考慮して、その増額されるべき借賃を定むべきことは前示説示のとおりであるところ

(イ)  第一審原告は、いわゆる利回り方式によりこれを算出すべきであると主張し、地代は土地という資本の投下による利潤の面を有することは経済的には否定できないが、それだからといつて当事者の合意により地代額が定められる場合は格別、借地法一二条に基づく借賃増額請求によつて形成される借賃額は土地所有者の投下資本の利潤を確保することを主たる目的とするものでなく、右によつて借賃が増加された場合に資本価格に応じて利潤額が増加される結果となつても、すべての地代に一率に利潤率を確保した結果によるものではないのであつて、相当借賃額の算出にあたつては、当該賃貸借における具体的なすべての事情を参酌してこれを定むべきであり、本件甲地及び乙地の賃貸借につき前示説示の事情のもとにおいては 前示認定の方式により相当借賃額を算出するのを相当とするから、この点に関する第一審原告の主張は理由がない。

(ロ) 第一審被告らは、相当借賃額を定めるにあたつては裁判所がこれを一方的に形成するものであり 元来地代は不労所得であるからその増額も最小限にとどめるべきであると主張し、(イ)借賃増額請求権は基本的人権とは関係のない権利であるから地主に経済的利得を保障することは一種の特権を認めることとなる、というけれども 借地法一二条の規定は事情の変遷に伴つて土地使用の対価である地代の増減を請求する権利を土地の賃貸借契約の当事者双方に認めたものであつて、これにより特に土地所有者に特権を認めたものではないし、また同条を適用するにあたり前記認定の算定方式を採用したからといつて、借地権者の基本的人権を不当に侵害し土地所有者に不当な特権を認めるものではないし、(ロ)また、第一審被告らの主張するように比隣私有地の昭和四七、八年度の坪当り月額賃料が最低坪当り金四〇円及び金八〇円のものがあつたとの点につきこれを認めるに足る証拠がなく、仮りにそのような借地があつたとしても、その借地契約の具体的内容及びその経過につき本件の相当借賃額を認めるために必要な賃料となる証拠はなく、他方賃借土地に賦課される公租公課についても借地権価格の割合に応じて相当借賃額の算出にあたり各負担を定むべきであるというが、賃借土地に対する公租公課は借賃額を定めるにあたり必要経費として加算すべき金額であつて、公租公課が土地所有者に賦課されるのは当該土地を所有することに基づくものであるが、借賃額を定めるにあたり、右の公租公課は土地所有者において賃貸借契約上の義務を履行するにあたり必要な経費であるのみならず、借地法一二条一項は、土地所有者の負担に帰すべき租税その他の公課の増加を同条に基づく増額請求の要件にしており、これが負担につき借地権価格割合に応じて負担を分担すべき趣旨と解せられないから、これを加算するのが相当であり、さらに地主において生活上の収支計算を明らかに生存権的必要性を認むべき資料の存しない以上、増額を許さないか又は増確も最小限にとどめるべきであるというが、借地法一二条は借賃増額請求する者にそのような資料を明らかにすることを要求していないし、このように所するも憲法に違反するものでないから、以上いずれも第一審被告らの主張は理由がない。

二右に認定した相当借賃額の昭和四六年六月一日から昭和五一年六月三〇日までの合計額は甲地につき金九〇万二、六四六円(ただし、昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までの分につき第一審原告は一か月金九、三五二円と主張するので前記認定にかかわらず右の割合の金額で計算した。)、乙地につき金一一四万八、三六六円(ただし、昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までの分につき第一審原告は一か月金一万一、八九九円と主張するので前記認定にかかわらず右の割合の金額で計算した。)となる(別紙「認容借賃額及び不足額一覧表」中「認容借賃額」欄記載参照。)ところ、別紙「賃料計算一覧表」中「供託(又は預り金)」欄記載のとおりの金額の供託がなされたことは前示のように当事者間に争いがなく、その供託した借賃額は、第一審被告らにおいてこれを相当と認めたことにつき前記認定額に照らし不相当でないと認められるから、これが供託額の合計額である甲地については金七六万四、〇四七円、乙地については金九六万二、三四六円をそれぞれ前記認定の相当借賃額の合計額から差し引くと、甲地については金一三万六、五五九円、乙地については金一八万三、四四〇円の不足額が生ずるので第一審被告らは第一審原告に対しそれぞれ甲地及び乙地につき右の不足額(別紙「認容借賃額及び不足額一覧表」中「不足額」欄記載参照。)合計金員並びに右不足額に対する各借賃支払期日の翌日から借地法一二条二項ただし書き所定の法定利率年一割の割合による利息を支払う義務がある。

したがつて、第一審原告の本訴請求は右の限度で正当として認容すべく、その余は失当として棄却を免がれない。

よつて、第一審原告の本訴請求を右の限度で認容して第一審被告らに支払いを命じ、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用は本件の場合には訴えの変更の前後を通じすべてこれが負担を定めるのが相当であると認めその負担する割合は当事者双方の勝敗の割合を勘案してこれを定め、なお、申立てにより第一審原告勝訴部分にかぎり仮執行の宣言を付するのを相当と認めて、主文のように判決する。

(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

賃料計算一覧表<省略>

認容借賃額及び不足額一覧表<省略>

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